Fahrenheit -華氏- Ⅲ
男の方は照明のせいか顔の半分に影が掛かっていて分からない。
けれど女の方は紛れもない、
瑠華だ―――
どれだけ影が降りていようと、どれだけピントがズレてぼやけていようと
俺は見分けられる。それにこのコートは瑠華が着ていたものだ。間違いない。
瑠華は嫌がっている様子はない。(ただ何を考えてるのか分からない、相変わらずの無表情だったけれど)
ごく自然の、どこにでもいるカップル―――と言う写真。
何て答えればいいのか、何と反応すれば一番ベストなのか、俺が頭の中でぐるぐる計算しているときだった。
突如、その画像を誰かの手が遮った。
「どうしてあなたがその写真を?二村さん」
瑠華が片手に俺のコーヒーマグを手に、片方の手で画像を手で覆いながら、険を含んだ視線で二村を睨んでいた。
「あ、やー!これは偶然っ!」二村が苦笑いをする。
「偶然にしても悪趣味ですね。人のプライベートを盗み撮るとは。著作権の侵害であなたを訴えますよ。
訴えられたくなければ、今すぐ。この場で、その写真を削除してください」
瑠華の淡々とした言葉に、二村がたじろいだように視線をあたふたと泳がせる。
俺の計算より瑠華の方が早かったようだ。
「あ、いや…これは、その…」二村が怯んだ。
「その前にお聞きします。あなたはこの場をどう偶然に通られたのか、何故?どう言ったいきさつで?
この広い東京、そうそう“偶然”なんてこと、有り得ませんよね」
瑠華が次に返ってくる二村の言葉を発せられないように隙なく言う。
それで分かった。
なるほど
ハニートラップか。
そして、仕掛けらた本人、瑠華もそれに気付いている。
文字通り
これは罠だ。