Fahrenheit -華氏- Ⅲ
二村は―――俺と瑠華が別れたと言うのに、さらに二人の関係を引き裂こうとしている。
俺たちの関係を―――修復できない程までこなごなに粉砕したいのだろう。
ここで確信した。
派閥争い云々かんぬんだけじゃない、こいつはやっぱり俺を
憎んでいる。
瑠華は昨日『ジョーカーと会う』と言う謎の言葉を残した。
そのジョーカーなる人物がこの男―――
瑠華に怒られて慌ただしくスマホを操作している二村を眺め、写真の男と二村にどう繋がりがあるのか気になったが、瑠華はその関係も掴んだのだろう。
「す、すみませんでした!消しますねっ!」と言い、『削除』ボタンをタップして「消しましたよ!」と慌てていたが、きっとどこかにバックアップを取っているに違いない。
周到に瑠華を陥れる材料を用意したこいつだ。こんな瑠華の脅しで簡単に大事な証拠を削除する筈がない。
瑠華は少しの間、黙って二村の黒い画面に視線を落としていたが……
てか、こっわーーーーっ!
俺、そんな怖い視線で睨まれたことないよ。
と背筋が凍るような、それはそれは恐ろしい視線で見下ろしていたが、すぐにいつもの無表情になると
「部長、コーヒーです。少しぬるめのブラック、どうぞ」
と、二村を挑発しているのだろう、わざと明るく微笑みながら俺のデスクにカップを置いていき、その後は何事も無かったかのようにデスクにつくと、仕事をはじめる。
久しぶりに―――俺に向けられた微笑みは、
造り物でしかない。
俺は瑠華の本当の笑顔を―――取り戻したい。
二村はまだ帰って行こうとせず、俺の周りをうろちょろ。
「ホントに偶然だったんですよー」と言い訳。
「しつこい。俺はお前のプライベートに全く興味がない」今度は俺が言ってやると、同時だった。
「二村、お前はまたそんな所で油を売ってるのか」
村木が腕組みをしながら現れて、陰気な視線で俺たちを眺めると
「二村、まさか君。我々の重要案件をここで喋ってないだろうな」
と二村に視線を移す。
「ま、まさか!」
これには二村も本当に驚いた様子だ。
普段の俺だったら
「ああ゛!?てめぇんとこの案件知っても、痛くも痒くもねぇ!」と心の中で思ったが
これが陰険村木の“演技”だと気付いた。
演技とは言え、さすが陰険。喋り方が嫌味ったらしく、ねちっこく、俺たちを卑下するような―――
演技だと思ってもちょっーーーーーとムカツク。