Fahrenheit -華氏- Ⅲ
その後、村木は二村の襟を引っ張っていくようにヤツを連れ戻し、ひとときの平穏が……
訪れるわけでもなく
この微妙な空気、どうすればっ!
瑠華は俺のことなんてまるで視界に入っていないように淡々とPCに向かっている。
瑠華の額にキスを落としていた男。
ハニートラップだと分かっても、やっぱり気になる。
「柏木さん…金曜日……」
俺は何を聞こうとしているのだ。
「金曜……」
「金曜日?13日ではないので、ジェイソンは来ていませんが」瑠華が目を細める。
「ジェイっ……!?
いや、ジェイソンの来訪の有無じゃなくて」
「じゃぁ何なんですか」と瑠華が怪訝そうに眉をあげた。
「金曜日っ!
何食べた?」
俺の問いかけに瑠華が大きな目をまばたきさせる。
ぅわっ!俺やっちゃったよ!
何週末のメニューなんて聞いてンだよ!
「いや、ほらさ…最近少し痩せた…あ、ごめっ!セクハラになる!?」
慌てて両手で口元を押さえ
「いいえ、セクハラにはなりませんが。金曜日はフレンチを」瑠華は無表情に淡々と答える。
「フレンチ?いいな~」俺は空元気に笑った。ぎこちなく頬が引きつってるのが分かった。
「俺なんて、同期四人とスーパーの惣菜だよ?柏木さんが羨ましい」
「同期…?四人?」
今度は瑠華の方が聞いてきて
「あ、うん……いつものメンバーで…結構遅くまで俺んちで飲んでて…」
て、聞かれてもないのにペラペラ。
「そう―――ですか」
瑠華は書類をトントンと整えると、それ以降会話は途切れた。
その一瞬の間は何だったんだろう。