Fahrenheit -華氏- Ⅲ
『この前』と言うのは、言うまでもなく心音ちゃんの作った偽HPのパスワードだよな。
裕二は指の関節をこきこき鳴らし、
「よっしゃ」と喝(?)を入れ、キーボードに手を這わせた。
心音ちゃんのときと同様、スケジュール管理表の窓と別枠の窓、黒い画面が現れ、裕二はその黒い画面の中、鮮やかなグリーンともブルーともつかない色合いの数字やら英字やらをあちこちに入れていきはEnterキーを押す、の繰り返し。
俺には全く分からないが、裕二は手慣れたもので、迷いなくその文字たちを打っていく。
やがて
パチン
指を鳴らして
「ビンゴ~♪」と軽やかに言い、黒い丸で現れる文字と数字を入力して、パッと画面が切り替わった。
その間、一分にも満たなかった。
裕二が言った通り「この前のようにはならなかった」し、そして心音ちゃんのガードは相当固かったってことが証明された。
画面には、カレンダー形式で役員たちのスケジュールがことこまやかに記載されていた。
「あの…麻野主任、一つお聞きしたいのですが、この技はどこで?まさか学校がそんなことを教えているのですか?違法行為では?」
村木が額に手をやり
「違法行為かどうか問われれば違法ですが、学校では当然教えてくれませんよ。これは完全に俺の独学。
高校卒業するとき進みたい進路は決まってたけど、でも奥が深いから、もっと色々習得してからでも、ってことで一浪した」
なるほどー……
優秀なのに一浪したワケが分かった。
「だって俺負けず嫌いだし、その道を究めるんだったらやっぱトップに立ちたいし」と裕二は鼻の下に人差し指を走らせながら
「さっすが裕二!」と綾子がまるで裕二に抱き付きそうな勢い。俺もちょっとこいつを初めて「すげぇ」って思った。
まぁ実際、流石に抱き付いたりはしなかったが。
だけど、裕二の経歴どうのよりも、今はこのスケジュールを確認することが一番。