Fahrenheit -華氏- Ⅲ
各々のメンバーが揃うのは銀座でも名のあるかなり老舗の料亭。その次の欄に銀座の高級クラブの名前が書かれていたが、それは『マダム・バタフライ』ではなかった。
裕二は名刺を受け取ると、店名と住所を『マダム・バタフライ』に書き換えた。
「マダム・バタフライ?」村木の眉がぴくりと動いた。
俺は名刺を人差し指と中指で挟み、ひらひらとかざしながら
「俺が盗んだ、夜の蝶の―――店ですよ。あなたもご存じでしょう?」
俺が村木にニヤリと笑いかけると、村木は微苦笑を浮かべた。
「“彼女”にも協力を?」
「そんなところです」
「大変!瑞野さんが戻ってきちゃう!」扉の隙間から外の様子を監視していた綾子が声を潜めて真剣に俺たちを見た。
「ヤッベ!」
裕二が全ての画面を消し、
「後は俺に任せろ、裕二、それから村木さんは扉の近くで」俺は指示して、念のため、11日の会食の欄だけバックアップを取ったUSBを胸ポケットに仕舞い、
「綾子はこっちに」と俺が綾子のデスクに移動して手招きすると、綾子は走り寄ってきた。
コンコン
短くノックする音が聞こえ
「失礼します」と瑞野さんが入ってきた。扉が開かれたその影に裕二と村木が潜んでいたが、瑞野さんは気付いていない様子で、扉が閉まる前に二人は身を翻し、何とか廊下に逃げることに成功。
俺と綾子は二人して「ほぅ」とため息。