Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「あ…神流部長、お疲れ様です」
瑞野さんは慌てて頭を下げた。
「お、お疲れっ!」
俺はぎこちなく…と言うか不自然に?なっちまった。
すぐ後ろで俺の尻をぎゅっとつねる綾子。
「いでっ!」
『あんたね!そんな不審な態度してたら疑われるっつうの!』と背後からボソボソ。
瑠華と違って、こっち(瑞野さん)は一週間ぶりだ。
思えば俺、一週間前瑞野さんに酷いこと言ったよな―――
俺が香水をつけていないことを瑞野さんに指摘され、
『別に君には関係ないことだろ』なんて言っちまった。考えたら、あの時の俺かなり酷いこと言ったよな。
けれど瑞野さんはあまり気にしていない様子だ。と言うか覚えてない、と言った感じにも見える。けれどそう装っているだけだろう。
優しい女―――なんだろうな。
「あ、あの……どうかされたんですか…」
瑞野さんは、俺たちの態度を『不審』とは思っていないようで、純粋に心配してくれてる―――ように見える。
「あ、ううん!何もないよ」俺は慌てて手を振った。
「大丈夫!こいつにセクハラされてるとかじゃないから!」と綾子。
「綾子てめっ!誰がお前みたいなオトコ女にっ」
「それがすでにセクハラだっつうの」
綾子にチョップされて、俺は額をなでなで。
くすくすっ
瑞野さんが小さく笑い声を漏らし
「……すみませ…相変わらず仲良しですね」と口元に手を当てる。
俺と綾子は思わず顔を合わせ、
「「仲良し!?」」
またも声が揃っちまった。
ま、まぁ……疑われてないってことだよな、これは。
再びほっと胸を撫で下ろして、俺は何でもない様子を装って会長室を出た。
「じゃな、後はヨロシク」と綾子に言い置いて。
何がヨロシクなんだ??
と思いつつ、エレベーターを待っていると
「部長っ!」
瑞野さんが追いかけてきた。