Fahrenheit -華氏- Ⅲ

正直、一瞬ビクゥってなったけれど、そこは何とか堪え俺は平静を装って


「何?」と振り返った。


瑞野さんは慌てて追いかけてきたみたいで、ちょっと咳き込みながら


「あ…あの…


ランチ!一緒にどうですか!」


瑞野さんの言葉に俺は目をまばたいた。


「いえ…あの、さっき桐島主査にこないだのパーティーの会費代をお支払しようと思ったのですが、桐島主査が、部長が全部お支払されたって言ってたので」


ま、まぁ?


会費代は俺が支払ったから間違いじゃないけど。


とは言っても桐島のツレの店だし、知人価格なんだろうな、思ったよりだいぶ安くついたし、桐島も働いてくれたから人件費も削減できたし。


「請求書見てびっくりしたけどね。領収証はとってあるから経費で落ちるかな」


俺は冗談で笑いながら肩をすくめてみせた。


瑞野さんは俺の冗談を真に受けて顔を青くすると


「すみませっ…!あたし…ちゃんとお支払します!」と慌てて持参してきたピンク色の財布の蓋を開ける。


「いやっ!今の冗談だからっ、大した金額じゃないし、気にしないで」


今度は俺の方が慌てた。


こうゆうとこ擦れてないって言うのかなー…


瑠華なら「お支払します。請求書提示してください」て真顔で言って絶対財布を仕舞わないだろうし


シロアリ緑川なら「ホントですかぁ?ありがとぉございます」てちゃっかりしてるだろうし


綾子なら「男でしょ!小さいことでごちゃごちゃ言うなっ!」って言われそうだ…


「いやっ!ホントに気にしなくていいから」慌てて言うと


「じゃぁランチしてくれませんか?あたしが払います!」


といつになく力強く、真剣に言われ、どこか圧の感じるその物言いに


「う……うん…それぐらいなら」


と答えてしまった。


< 159 / 608 >

この作品をシェア

pagetop