Fahrenheit -華氏- Ⅲ
正直、一瞬ビクゥってなったけれど、そこは何とか堪え俺は平静を装って
「何?」と振り返った。
瑞野さんは慌てて追いかけてきたみたいで、ちょっと咳き込みながら
「あ…あの…
ランチ!一緒にどうですか!」
瑞野さんの言葉に俺は目をまばたいた。
「いえ…あの、さっき桐島主査にこないだのパーティーの会費代をお支払しようと思ったのですが、桐島主査が、部長が全部お支払されたって言ってたので」
ま、まぁ?
会費代は俺が支払ったから間違いじゃないけど。
とは言っても桐島のツレの店だし、知人価格なんだろうな、思ったよりだいぶ安くついたし、桐島も働いてくれたから人件費も削減できたし。
「請求書見てびっくりしたけどね。領収証はとってあるから経費で落ちるかな」
俺は冗談で笑いながら肩をすくめてみせた。
瑞野さんは俺の冗談を真に受けて顔を青くすると
「すみませっ…!あたし…ちゃんとお支払します!」と慌てて持参してきたピンク色の財布の蓋を開ける。
「いやっ!今の冗談だからっ、大した金額じゃないし、気にしないで」
今度は俺の方が慌てた。
こうゆうとこ擦れてないって言うのかなー…
瑠華なら「お支払します。請求書提示してください」て真顔で言って絶対財布を仕舞わないだろうし
シロアリ緑川なら「ホントですかぁ?ありがとぉございます」てちゃっかりしてるだろうし
綾子なら「男でしょ!小さいことでごちゃごちゃ言うなっ!」って言われそうだ…
「いやっ!ホントに気にしなくていいから」慌てて言うと
「じゃぁランチしてくれませんか?あたしが払います!」
といつになく力強く、真剣に言われ、どこか圧の感じるその物言いに
「う……うん…それぐらいなら」
と答えてしまった。