Fahrenheit -華氏- Ⅲ


まさに最悪なタイミングだ。


瑞野さんと居るときに瑠華と鉢合わせるなんて。


“あの”香坂さんだから絶対何か勘付いた筈。


でも追いかけて「違うんです!」と言って、瑠華の方へ引き返す…こともできない。


何が違って、何が正しいのか。


分かんねぇよ。


でも一つだけ分かってるのは―――


俺は瑞野さんとランチに行くってこと。


瑞野さんと歩き出し


「どこがいい?」と聞くと


「すみません、何も決めてなくて。部長が何をお好きなのか知らなくて」


と恥ずかしそうに俯く。


「いや、いいよ。ちょっと歩く?」と提案すると


「はい」と控えめな返事がかえってきた。


隣り合って歩く俺たちはどんな関係に見えるのだろう。


同僚?上司と部下―――?友達…




恋人




「ねぇ瑞野さんて付き合ってるヤツいるの?」


突然の言葉に


「い、いません!」と瑞野さんは真っ赤になって手を振る。


前にも聞いた質問だから答えは分かってたけど。


「そ。俺、彼女と別れたばかり」


俺の言葉に瑞野さんは歩を止めた。



「え―――……?」



惚けてるのか?それとも本当に知らないのか。二村から聞いてると思ったけど。


「聞いてない?」


俺が振り向きながら聞くと


「……誰に…ですか?木下リーダ―…?」


「綾子?あいつはそんなどーでもいいこと言いふらしたりしねぇよ」


「どーでもいい……」


瑞野さんは複雑な表情を作って俯いた。


俺はふいと顏を逸らし、前を向くと


「だからと言って手頃な所で手を打って新しい彼女を作るとかないけどね」


俺は意地悪だ。


意地悪で――――最低。



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