Fahrenheit -華氏- Ⅲ
けれど瑞野さんは突然その手を止めて
「先ほどは―――あたしも失礼なことを」
と向かい側で頭を下げる。その頬がほんの少し赤く染まっていた。
「無神経なことを言ってしまった…て」
「いや、無神経なのは俺の方で―――」
一方的に、二村にされた仕打ちの腹いせで瑞野さんに当たった俺の方が完全に悪い。瑞野さんには非がない。
「ごめん」
「ごめんなさい」
俺たちは同じタイミングで言葉を上げ、同時に顔を合わせた。
「くすっ」
最初に笑ったのは瑞野さんだった。
「何だかあたしたち謝ってばかりですね」
「そうだな」
「考えたら―――あたしたちってお互いにとって何も悪いことしてないじゃないですか。だから謝るのとか、変ですよね」
「でも、俺は瑞野さんにとってやっぱり無神経で、色々振り回しちゃったり…
やっぱ俺は『ごめん』だよ」
眉を下げると
「いいえ、あたしは気を悪くしていないので、ただ―――…」
言いかけて瑞野さんは口をつぐむ。
「ただ?」俺が促すと
「ただ、ちょっとキマヅイなって」瑞野さんは恥ずかしそうに舌をちらりと出し「何でそう思わなきゃいけないのか分からないけれど、やっぱキマヅイなって」
「俺もそうかも」
眉を下げたまま俺も笑った。
そのうちパスタが運ばれてきた。
平打ちのパスタ麺に白い濃厚なクリームソース。ポルチーニ茸が乗っていて、お洒落にパセリが散らばっている。そのパスタから湯気があがっていた。香りもいい。
思ったよりうまそうだ。