Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺たちは使われてない会議室でおにぎりを食べることにした。
「何だか、変な感じですね」
瑞野さんはおにぎりを頬張りながらちょっと笑顔を浮かべる。
「うん、変な感じ」俺も笑った。
「でもさっきのパスタよりずっとおいしく感じられます」
「俺も」
おにぎりをほぼ食い終わったときだった。
会議室の前を事務の女の子が賑やかな笑い声をあげて通り過ぎていくのが分かった。
「ねぇ~聞いた?こないだ総務の佐野と、近藤さんが会議室でヤってたって話」
「え~!何それっ!」
「あ、あたしも聞いた~!」
俺は最後の一口を口に入れていたところ盛大にむせそうになったが、それを慌てて堪える。瑞野さんも顔を真っ赤にさせていた。
「てか何で知ってンの?」
「偶然見ちゃった人がいるって」
「うわっ!見ちゃったひともキマヅイだろうね~」
女子たちは俺たちがまさに今コンビニのおにぎりを食っている最中だと気付かず、明るい笑い声をあげながら立ち去って行く。
き…キマヅイ!
「か、帰ろうか!」
急に立ち上がった俺の腕がテーブルに置いた瑞野さんのバッグを直撃したようで、中身がバラまかれた。
床に財布やら化粧ポーチやら歯磨きセットがばらまかれる。
「ご、ごめっ!」
何やってんだよ、俺!動揺してんなよ、俺!
慌ててしゃがみ込み、ばらまかれた財布やら化粧ポーチやらを拾い上げていると、
すぐ背後からふわりと花の香りが俺の体を包んだ。