Fahrenheit -華氏- Ⅲ
傷痕の固まった血液はお湯で流れてきれいになったけれど、固まった部分が流されると、今度は新しい血液が流れ始める。
ほんの微量だけれど、ここでようやく僅かな痛みが伴いあたしは顔をしかめた。
入るときの時間から計算すると、それほど時間を掛けていられない。
サッとシャワーを浴び、今度はちゃんと髪を乾かす為、パウダールームのドレッサーに向かうものの、鏡に映ったあたしの顔は酷いものだった。
泣いたからなのか、瞼は腫れてるし、顔色はサイアクに悪い。
それでも髪を乾かし、化粧を施す。
瞼の腫れはいつもより濃い目のシャドウで何とか誤魔化して、唇もマット感のある強い赤を乗せて。
ついでに傷つけた場所を丁寧に絆創膏を張り付けた。腕は隠せるけど…流石に手は無理があるし絆創膏も貼りづらい。剥がれないように包帯を巻くしかなかった。
出来上がった自分の顏を鏡越しに見て
「うん……何とか…?」と納得させるのにまたも時間が掛かった。
時間は7時半を指していた。
始業時間まで、移動時間を考えてもまだ充分時間はある。けれど髪を巻く気力は無かった。まっすぐに下がった髪を手で撫でながら
大丈夫。
と言い聞かせ、喝を入れるつもりでペシリと両頬を軽く叩く。
歯を磨き、服を着替え、エントランスロビーに降り立つと
ロビーに設えてあるソファに見知った姿があった。
そのひとは―――
「あ、瑠華ちゃん!」
と明るく笑って手を振っていた。