Fahrenheit -華氏- Ⅲ
会社から帰ってもそのままマナーモードにしていたし、あたしは『角煮』に悪戦苦闘中だった。
結局『角煮』の“か”の字もないけど。
葵さんにコールバックすると
『ああ~良かったぁ、やっと繋がった』と葵さんはどこかほっとしたようだ。遠くで流行りのポップスミュージックが聞こえてきてちょっと賑やかだ。どうやら外のようだ。
「何かありましたか?」せっかちに聞くと
『うん、ちょっとした収穫がね~、それより瑠華ちゃん、晩御飯まだ?』
「はい、まだですが」
思わず正直に答えてしまった。
『じゃぁさ、今から飲みに行こうよ。その時に話すよ』
あたしとしたことが……電話で済むことが、葵さんに会う口実を作ってしまった。
しかし聞いてしまった以上、行くしかないし、葵さんが何を掴んだのかも気になる。
結局―――あたしは葵さんが指定するチェーン店の居酒屋まで来ていた。
全室個室で、狭くもなく広くもない部屋が細かく間仕切りされている。
個室?
あたしは一瞬眉をひそめた。
正直、免許証の情報は手に入れたものの、ほとんど得体の知れない男と二人きりになるのは。
と、警戒心を抱きながらも店員さんに案内され
「あ、瑠華ちゃん♪こっちこっち~!」
と個室から顔を出し、まるで子供のように手をぶんぶん振っている葵さんを見ると
何かの間違いもなさそうだ、と思った。