Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしは結局生ビールと焼き鳥の盛り合わせ、それからアジフライを頼んだ。
「お、センスいいね~♪ここのアジフライも結構おいしいんだよ」と葵さんは両手の人差し指をあたしに向けにこにこ。
このひとのペースは……本当に掴めない。
あたしとは別の人種だ。もしくは宇宙人??
「お料理のセンスはどうでもいいです。それより二村さんの動きに何かあったのですか」
せっかちに聞くと、葵さんは軽く肩をすくめ
ビールが運ばれてきてから、自身のスマホを見せてくれた。
「これ、見てよ」
と見せられた画面は動画のようで、角度がイマイチだったけれど、葵さんと二村さんがこことは違う居酒屋さんで向かい合って飲んでいる姿が撮られていた。
思わず葵さんを仰ぎ見ると
「空汰から呼び出されたんだ、昨日」
「昨日?」
「そ。瑠華ちゃんとどうなってるか聞きたかったみたい」
「そう―――ですか」
「で?その後の守備はいかがですか?」
「ん~まぁボチボチよ?言われた通り、瑠華ちゃんから電話があって呼び出されたって。そんでその後お茶しようと言われてお茶したけど、その後のデートに誘ったら断られて~、意外とガードが固いって言っておいた」
急激に接近したら二村さんに怪しまれる。葵さんの言い訳は都合がいい。
「それでいいです。で?二村さんの反応は?」
「『あのタイプはオトコに捨てられた時、誰かに縋りたいって思うタイプだ。頑固だけど、何回かアタックしたらそのうち必ず堕ちる』だって~」
と葵さんは他人事のように言う。
生憎、誰かに縋りたいと思ったことは―――男性にはない。(女性にはあるけど)
「で、空汰は俺と瑠華ちゃんが“仲良く”してること、フェイクだと知らずに色々話してくれた。
あ、これね、メニュー表の衝立の向こう側にスマホ置いて隠し撮りしてたんだ」と葵さんは得意げ。
隠し撮り―――…?だから変なアングルなのだ…
葵さんは―――二村さんよりあたしの契約の方を重視してくれたようで、少しばかり安堵する。
最初は二村さんと葵さんの何気ない日常会話から始まった。
それから数分後、料理が運ばれてきて二村さんがビールを飲みながら
『もう少し押せよ。心が弱ってるとき女は誰かに縋りたいって思うからサ』
『それはお前の経験談?』と葵さんは苦笑。
『まぁそんなところだ?』
それは―――緑川さんのことを言っているのだろうか。
『それよりサ、お前の方も例の副社長の娘、うまく繋ぎ止めてンの?』
葵さんが身を乗り出し楽しそうに聞く。
あたしは思わず葵さんを窺いみると、葵さんは一旦停止のボタンをタップして
「情報、情報~」と明るく笑う。
葵さんの言葉に、ムッとするどころか感心さえ覚えた。話の引っ張り方がうまい。流石詐欺師ね。