Fahrenheit -華氏- Ⅲ
案の定、二村さんは葵さんの言葉に疑いもせず
『まぁ、守備は上々よ?でもサ~、ここ一週間あんま会ってくんないんだよね。風邪ひいたとか、で』
風邪―――は、完全なる緑川さんの嘘だ。言うまでも無く、そう言って二村さんと会わないように進言したのはあたし。
少なくとも彼女の生理期間が終わるまで近づかない方がいい。
『じゃぁ心配する“振り”で会いに行ったら?』葵さんがにやにや笑っている。
『それも試してみたけどさ、女って不安定な時期あるじゃん?それこそ生理前とか?』
『あー、分かる。俺も同棲してるオンナが機嫌悪いとき大抵そうだから』
『まだヒモみたいなこと続けてンのかよ。お前もまともな職につけば?』
『お前、俺がまともな職に就けると思ってンのか?』
『まぁ、勇馬には無理かもな』
アハハ、と明るく笑う二村さんの言葉を聞き、テーブルに置いた手の爪の先がギリギリとテーブルの上を引っかいた。
「Fuck you…」
思わず口に出てしまって
「え…ファック…??」と葵さんが目を丸める。
「ああ、すみません『くたばれ』って言う意味です。勿論あなたにではなく、二村さんにですが」
「ああ、そう。それなら良かった」
「良くはないです。あなたも女性を食い物にする生活をやめてまともな道を歩んだ方がいいですよ」と冷めた目で言うと
「それはそれで、あとから聞くから~」と葵さんは両手で隣に置くジェスチャー。
『こっちのことは気にするなよ。お前は柏木さんの気持ちを上手く利用しろよ?今はガードが固いけど、そのうち堕ちるさ。お前だったら』
『そうかもな。割と好感触だし。しかもめっちゃ好みだし♪』
『で、深い中になったらハメ録りしろよ』
ここに来て動画の中でも、目の前に居る現実の葵さんも、同じタイミングで顔を歪めた。