Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ハメ録り――――…?
聞き慣れない言葉にあたしは目をまばたいた。
意味が分からず葵さんを仰ぎ見ると
「あー……その…俺が瑠華ちゃんとヤってるとこ動画に撮れって。もちろん瑠華ちゃんに気付かれないように」と葵さんは苦笑い。
あたしは目と口を開いた。
開いた口が塞がらない、とはこのことを言うのだろうか。
二村さん―――どこまで下劣な――
あたしはここに来て再び怒気を露わにした。
拳でテーブルを叩き
「Kiss my ass! Son of a bitch!」と歯軋りした。
「え…今度はキス……?」
「いえ、すみません。『くたばれ、このクソ野郎』と言う意味です」
あたしが軽く手を上げると、葵さんは目をぱちぱち。
「瑠華ちゃんでも『クソ』とか言うんだ~」と妙な所で感心。
「二村さんは私が思ったより最低な人間だったようです」冷めた目でぐいとビールを一気にあおった。この例えようない怒りを鎮めるため。
しかしそれだけでは当然鎮まらない。あたしはベルスターをせっかちに押して、駆けつけた店員さんに
「ウィスキーダブル。Noice」と早口で注文したすると「では“山崎”ご用意させていただきます」と店員さんは慌てて立ち去った。
二村さんは―――そこまでしてあたしを陥れたいのだ。
そこには単に緑川さんに纏わりつく厄介な虫以上の何か深い怨念のようなものを感じる。
あたしが二村さんに何をした、と言うのだろうか。
あたしが日本に来るまで、いいえ厳密に言うと二村さんが物流管理本部に異動になるまであたしたちには接点がなかった。
恨まれる覚えもない。
よっぽど怖い顔をしていたのだろうかあたしは。葵さんは慌てて苦笑い。
「俺も流石にそこまではね~…」と肩をすくめる。「世の中にはそうゆう趣味を好むヤツもいるだろうけど、俺は好きじゃないし」と手を振る。
葵さんの話に寄れば、単なるアダルト女優と俳優の絡みではなく、素人同士の…しかも隠し撮り的なものを好む人もいると言う。
最低だ。
動画の中の二村さんはもっと最低。
『今度、何かの約に立つだろ?』
『いや、流石にそれは』葵さんは今、ここで言った台詞で渋面を浮かべた。
Kiss my ass. Son of a bitch
あたしは心の中で再び復唱した。