Fahrenheit -華氏- Ⅲ
でも―――啓も同じようなことを言っていた。得意な方がやればいい、と。補えあえばいい、と。
あたしはこの関係を修復しようとしていて、啓も同じ気持ちであれば、あたしたちは互いに補い合えているのだろうか。
タクシーに乗り込み、またも深いため息。
疲れた…
今回、あたしは後ろを振り向かなかった。振り向かなくても分かる。
葵さんはきっと、タクシーが彼の視界から消えるまで手を振っているだろう。
自宅に帰るまで10分程。その間にあたしは紫利さんに電話をした。けれどそう都合よくいかないものね。
紫利さんには電話が繋がらなくて、留守電にいってしまった。
留守電に『柏木です、お聞きしたいことがあるのでまた連絡いたします』とだけ残し、マンション近くのコンビニの前で降ろしてもらった。
お昼にサンドイッチ二切れ、さっきは焼き鳥二本とアジフライを葵さんと半分こ。
最近まともに食事をしていないから、身体に力が入らないし、思考もまとまらない。
食欲がなくてもとりあえず何か食べないと。
かと言ってコンビニ弁当は美味しそうに見えないし手が伸びない。
とりあえず、甘い物で糖分補充しようとしてスイーツコーナーに移動すると、こちらはかなり美味しそうなパッケージがいくつも並んでいた。
レアチーズケーキとモンブランで悩んでいる最中だった。
TRRRR…
スマホが着信を鳴らしてバッグから取り出すと
着信:紫利さん
になっていて、あたしは慌てて電話に出た。