Fahrenheit -華氏- Ⅲ
紫利さんの白いベンツはこざっぱりとして清潔感があった。
助手席で揺られながら
「あら、やだ。間に合うかしら」
紫利さんは腕時計を眺め真剣。
と言うのも朝の道路は思いのほか渋滞していた。
「大丈夫です、間に合わなかったらその前に電話します―――…」
言いかけて
ああ、そうだ…自分の携帯を昨日壊しちゃったんだ、と思い返すとまた頭痛が蘇ってくる。気付かれないようにしていたつもりだけれど、頭を押さえた微細な仕草を紫利さんは逃さなかったようだ。
「瑠華ちゃん、手どうしたの?」と紫利さんが目を丸めて、頭を押さえた場所に置いた手に包帯が巻かれていたことを気付かれた。
慌ててコートの裾を伸ばして隠そうとしたけれど
「ちょっとグラスを割っちゃって…」と嘘ではないが、何だか酷く後ろめたくて小さくなる声で何とか答えると
「そう?病院行かなくて大丈夫?」と理由は深く突っ込まず、それでいて心配そうに聞かれて、あたしは首を横に振った。
「大丈夫です、ご心配ありがとうございます。紫利さんには何から何までよくしていただいて」
「いいのよ、いいのよ」と紫利さんは朗らかに笑った。
「もう一人妹が出来たと思ったら嬉しいわ」
「もう一人?紫利さんはご兄妹が?」
「いいえ、でも妹同然のように可愛がってる子がいるの。私ってシスコンなのねきっと」紫利さんはちょっと苦笑を浮かべる。そう言えば……前に聞いたことがあったような…
「……羨ましいです」
そして、
ありがとうございます。