Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「私も無理なら無理と言います。けれど、ここまで付き合ったのは私自身の意思も勿論あるので」
村木……意外に良いヤツ??
陰険とか言って悪かった…
「それに私は年下の小僧に奢ってもらう程落ちぶれていない」
なーーー!
てめっ!!この野郎っ!
思わず心の声が態度に出そうだったけれど
「まぁまぁ、ここは割り勘ってことで」と裕二が今にも噴火しそうな俺を羽交い絞めにして、食い止める。
一瞬でも良いヤツって思った俺がバカだったぜ!
この闘いが終わったら薩長同盟は即終了だ。
大政奉還(※)がされたら、お前は用済みだっ!
(※大政奉還、政権を天皇に返上すること。慶応3年、江戸幕府の第15代将軍徳川慶喜が政権を朝廷に返上することを申し入れ、これによって鎌倉幕府以来約700年続いてきた武家政治は終了しました)
「お前…意外と歴史に詳しかったんだな…」
裕二は俺をしげしげ。
「は!俺の心の声が聞こえてた?」慌てて口を覆ったが
「いや?村木にゃ聞こえてねぇよ」と裕二は苦笑い。
「大政奉還―――されちゃ困るけどさ、
神流派が云々、緑川派がどうのこうのとかさ、あれこれ古臭い因縁にケリをつけられるのなら
他社に渡った方がいいのかもな」
他社に―――
「それはM&A(※)をしろ、と?」俺は目を上げた。(※)M&A…吸収合併
「まぁ一つの案だよ」裕二は力なく笑った。
M&Aか―――…
全く考えてなかった。
が、そうなりゃ親父は会長職から解かれるだろうな。
“あの”親父がそうやすやすと会社を手放すのをは思えない。
「大政奉還率は限りなく低いと思うぜ?ま、お前の案はありがたく受け取っておく」
裕二の肩をポンと叩いた。
それから俺たちは居酒屋の前で別れた。
村木と裕二は電車で、酒が入ってるからな…俺は車の代行を頼んだ。
コインパーキングに停めた車に向かう最中、
瑠華―――
の姿を見つけた。