Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そう言えば、この電話はマックスの番号だ。ユーリがこっそり電話をしてきたのか。
『July, Can I ask you to take over the phone now? I'd like to have a chat with you mom, too.(ユーリ、そろそろ良いかい?パパもママとお喋りしたいんだ)』と遠くからマックスの声が聞こえてきた
『Uh…(えー)』とユーリは不服そう。『I still want to have a chat with Mom.(ユーリはまだママとお喋りしてたいもん)』
『You can have a chat with your mom again.(またお喋りできるから)
Besides, you're gonna see your mom soon, okay?(それにもうすぐママに会えるよ)』
え―――…?
どう言う―――意味?
思わずスマホにキュッと力が籠った。
『Real? I can see my mom! (ホント!?ママに会える!?)』ユーリが電話の向こうではしゃいだ。
『It's true. So just give me the phone.(本当だよ、だからパパに代わって)』マックスの声が聞こえてきて、ユーリは大人しくマックスに電話を渡したのだろう。
その前にあたしは、通話を切っていた。
朝から、マックスの声なんて聞きたくない。
でも、ユーリに
会える――――?
一瞬の喜びがあったものの、けれどそれは急速に冷めていった。
どうせユーリを使ってあたしに電話を掛けさせたんでしょう。電話を替わる口実に『You'll meet your mom.(ママに会える)』なんて嘘をついて。ホント、最低。
無邪気な子供の心も利用するなんて。
最低。
読んでいた新聞をギリギリと握ると皺が寄った。
どうしようもない苛立ちを、しかし文字通りどうしようもできなくて
あたしはスマホを乱暴にソファに放り投げた。
TRRRR
またも電話が鳴り、画面を確認することなく
「Bothering!(しつこい!)」と怒鳴りながら電話に出ると
『柏木さん……?怒らせちゃってごめんなさいね、考えたら、こんな朝早くから』
綾子さん―――……?