Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「いえっ!すみません!あのっ、画面を良く見てなかったので。ついさっきまでアメリカからの“知人”から電話が掛かってきたので…」
嘘は言ってはいない。
もうあの人はあたしの夫ではない。ただの『知人』だ。
『…そう?迷惑だったかなーとか一瞬思っちゃったわ。それより何か怒ってたけど大丈夫?トラブル?』と心配そうに聞かれ
「いえ、大丈夫です。トラブルと言う程大げさなものではなく」
と言うと、綾子さんはほっとしたようだった。
『ねぇ柏木さん、私今日少し遅めの出勤なの。とは言っても始業時間は変わらないけれど、こういう機会滅多にないし、一緒にカフェでコーヒーでも飲まない?』
と綾子さんは誘ってくれた。
コーヒー…
あたしはテーブルに乗ったマグカップの中を覗いた。すでにコーヒーは底をついている。
けれど
「ええ、はい。誘ってくださいましてありがとうございます。どこへ向かえば宜しいですか」
―――
――――
綾子さんが伝えてくれたカフェは会社から一区間離れたオシャレなカフェだった。
「柏木さん、おはよう~」綾子さんは明るく手をふっていた。
「おはようございます」
テーブルを見ると、お洒落なコーヒーカップとその横にスコーンが乗ったお皿が並べられていた。
ブルーベリーと生クリームが上品に乗ったスコーン。
近づいてきたウェイトレスに
「コーヒーでいい?スコーンは食べる?ここのおいしいのよ」とチャキチャキとあたしに聞いてきて
「あ、はい」と綾子さんの勢いに押されて頷いた。