Fahrenheit -華氏- Ⅲ
間もなく淹れたてのコーヒーと焼きたてのスコーンが運ばれてきて、綾子さんの言った通り焼きたてのスコーンは美味しかった。
「憧れだったのようね、こうゆうの」綾子さんは物憂げに言ってコーヒーカップに口を付ける。
上品なボルドー色の口紅が綾子さんに良く似合っていてステキで色っぽい。
あたしも綾子さんに倣ってコーヒーを一口。それは思いのほか美味しかった。
「憧れ?」あたしは目を上げて綾子さんを見ると
「ほら、こういう女子同士の朝のカフェとか?同期の中で女は私一人だし、秘書課も瑞野さんが来るまで男連中だったし、歳の近い女子社員からは敬遠されがちだし」
ふぅ、綾子さんはため息をついた。
「中には会長と私が愛人関係だって噂する女子社員もいるのよ」
思わず「綾子さんも?」と聞いてしまっていた。
「“も”ってことは柏木さんも?」綾子さんは目をぱちぱちさせていたが、どこか納得しているようだった。
「恥ずかしながら。あたし、おじさまのヘッドハンティングでこの会社に来ましたけれど、それを何と勘違いされたのか…」
「そんなの放っておきなさい、単なるやっかみよ」
綾子さんは苦笑い。
「気にしてはいませんが、おじさまのイメージと言うのもありますし」
「会長もね、ステキな男性だから、彼の周りの女が妬ましいのね。ぶっちゃけ会長ってモテモテなのよ」
綾子さんは周りを気にするようにこそっと耳打ち。
あたしは思わず笑いながら頷いた。
「まぁ要するにね、私は気の合う友達と一緒にコーヒーを飲みたかっただけなの」
「友達?」思わず目を開くと、綾子さんは慌てて口元を覆い
「ごめんね、友達とか勝手に思ってて」
「いえ…いいえ!とても光栄です。あたしも“友達”と呼べる人がここには居なかったので」
「ホント?嬉しい」綾子さんは安心したように微笑み
それからあたしたちは時間が許す限り色んなことを話した。