Fahrenheit -華氏- Ⅲ
会社の社食は美味しくないからほとんど外食だ、と言う綾子さんに対し、あたしは外に行くのが面倒だから社食が多いし、ほぼ毎日佐々木さんと一緒だと言うと
「佐々木くんも男たちから妬まれるわね~」と綾子さんは何が面白いのかにニヤニヤ。
それから流行ってるファッションやメイク、美味しいカフェやレストラン、バーの話。
あっという間に時間は過ぎていって気づけば8時半を過ぎていた。
「やだ!もうこんな時間!?」と綾子さんの方が先に気づき
「ホントだ…」あたしも腕時計に視線を落とした。
「楽しい時間はあっという間ね」
「本当ですね」
「ね、またこうやってお茶しない?夜ご飯でもいいし、休日どこかへ出かけるのもいいんじゃない?ほら、前にあたしの家に泊まりにきてくれたでしょ?
一晩中くだらない会話で盛り上がって飲んで食べて」
綾子さんが身を乗り出し、あたしは笑いながら頷いた。
………つもりだった。
頷きながらだんだんと俯き加減になるのが分かった。分かっていても止められなかった。
「ごめ……なさ……」
スカートの上できゅっと握った手に涙の粒が落ちたのが分かった。
「え!え…?ごめんね、私図々しかったわね」と綾子さんがおろおろ。
「いえ……嬉しかったんです……本当に…綾子さんに気遣わせてるあたし……本当にダメで…迷惑ばかりかけて……ごめんなさい」
「迷惑だなんて……そんなこと一度たりとも思ったことはないわ。だって私も楽しいから、柏木さんといると。
ね、手を出して」
言われた通りおずおずと手を差し出すと
綾子さんはあたしの手をそっと握った。
あったかい―――
「何かあったら、何もなくても―――何でも言って?」
綾子さんの言葉にまたも涙が出そうになった。