Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ギリギリ9時に出勤すると、佐々木さんがまたもあたふたと
「はぁー柏木さん、良かったぁ」と心底ほっとしたようだ。
啓もこちらをちらりと見て、しかしすぐ視線を外しながらも少しだけ胸を撫で下ろしている。
「すみません、綾子さんとコーヒーを飲んでいて」
「木下リーダ―と?」と佐々木さんは目をぱちぱち。
啓は今度ははっきりとこちらと向いた。
まともに目が合い、でも最初に視線を逸らしたのは啓の方だった。
「今流行りの女子会と言うものです。スコーンとコーヒーが美味しいお店でした」とあたしは佐々木さんに業務報告をするように淡々と言った。
「へぇ~何かオシャレですね、柏木さんのイメージぴったりです」
「そうですか?」
傍から見たあたしのイメージってどんなものなんだろう。
啓だけが―――
本当のあたしのことを知っている。
デスクについてまずはPCを起ち上げ、大量に流れてくるメールのチェック。
Toはもちろんのこと、CcやBcc。
メールチェックだけでも15分は掛かる。
ああ、早く出社していたらこの時間を他の業務に当てられたのに…と後悔しつつも、でも綾子さんと過ごした朝食タイムはやっぱり有意義なもので、こうゆう朝も
悪くない、と思えた。