Fahrenheit -華氏- Ⅲ
朝食代わりにスコーンを食べたせいか、あたしのお腹は二切れのバゲットサンドの一切れも食べきるのが精一杯。
佐々木さんに差し上げると
「え!?それだけですか?」と佐々木さんはびっくりしているようだ。
「お腹いっぱいなので、それより一服いいですか?」あたしはタバコを取り出し、佐々木さんは「どうぞ、ぞうど」と言うジェスチャー。
タバコを吹かせながら、あたしはさっきのカップルと思しき店員の子たちをしげしげと眺めた。
彼らは一生懸命に働き、笑い合い、(女の子の方が)ちょっと怒ったり―――
理想のカップルだ、と改めて思った。
悲しいことも辛いことも、全て分かち合う。
佐々木さんはあたしの食べ残したバゲットサンドを食べる手を休めてアイスコーヒーを飲むと
「それより、あの……ずっと聞きたかったことがあるのですが」と切り出した。
「聞きたかったこと?」
「あの…不躾な質問かもしれませんが、
部長と……何かあったんですか」
本当―――不躾な質問だ。
けれど、佐々木さんを責めることはできない。だってあたしたちの関係は秘密だったわけだし。
「別に何も」
そう、最初から
何も無かったのだ。
「どうしてそう思ったんですか」
「い、いえ!何かこのところ二人ともギクシャクしてるなーって…な、何となくなんですが!」
佐々木さんは自分を恥じ入るように頭の後ろを掻く。
ギクシャク……他人にも分かってしまう程だったのか。
「まぁ敢えて言うならちょっと仕事上での言い合いと言うか意見の食い違いですね」
無難な返答だ。
「そう―――ですか……」
佐々木さんはどこか消化不良と言う感じだってけれど頷いた。
早くその話題から抜け出したいあたしは
「佐々木さん、昨日貸してくださったDVDまだ観れてないんです。もう少しお借りしてても?」と聞くと
「いや、結構な枚数なんで結構時間掛かると思います。僕は全然急いでないのでゆっくり見てください」と佐々木さんは人懐っこい笑顔を浮かべた。
昼食を食べ終え、コーヒーを空にして店を出る時、ちょうどあの高校生カップルが“あがり”なのか“休憩”なのか私服姿で、店の裏口から出てきて
二人は手を繋ぎながら
「なぁ、この後どっか遊びに行かへん」と男の子の方がにこにこと女の子に問いかけていて
「んじゃ、こないだ出来たショッピングモール行こうぜ♪可愛い雑貨屋があるみたいでさ~」
「ほな、そこで決まりやな♪」
さっきの険悪な雰囲気はどこへやら、仲良くお喋りしながら別方向へ別れていく。
彼らの笑顔、そして距離、何とも可愛らしい。
そして何と
輝かしい。
あたしは彼らの姿に自分と啓の姿を重ねた。
あたしたちも会社の近くで堂々と手を繋いで、歩きたい。
結局、叶わぬ夢だった。
儚い
夢
「かっ……柏木さんっ!」
佐々木さんに呼ばれて、そのカップルから視線を戻すと思わぬ至近距離に佐々木さんが居てちょっとびっくりした。