Fahrenheit -華氏- Ⅲ
再び自部署に戻ると
「部長、今日忙しいですね、あっち行ったりこっち行ったり」と佐々木がちょっと不審そうにしていて、
「んだよ、俺がどこで何してようが関係ねーだろ」と佐々木をちょっと睨むと
「はいはい、分かりましたよ。でも会社でナンパとかやめてくださいよ」と佐々木は俺の睨みに動じず…
まぁ俺も本気で怒ってるわけじゃないけどな。佐々木も何だかんだ付き合い長いし(濃いし)俺のこと分かってるよな~
しかし、分かり過ぎだぜ!
“ナンパ”と言うところでギクギクぅとなった。
別に瑞野さんを誘ったことが“ナンパ”にならないと思うが…
席に戻っていた瑠華を恐る恐るちらりと見ると
「佐々木さん、部長のその行動はもはや習性です。あまりお気になさない方が」
る、瑠華っ!
相変わらずブリザード並に冷たいお言葉。
でも―――きっと
別れる前の言葉ときっと意味も重さも違う気がした。
まるで『私は部長がどこで何をしようが関係ありません』と言われてる気がする。
俯きながら席に着くと
「部長、この書類ですが…」瑠華が書類の束をこちらに向けていて、それを受け取る際、一瞬……そう、ほんの一瞬だ。単位にすると『刹那』とも呼べるその瞬間
瑠華の細い指先に触れた。
意図して触れたわけじゃない。
ただ、偶然だった。
その一瞬、瑠華が顔を上げて目を開きながら俺を見てきて、俺も目を開いた。
互いの視線が一瞬だけ絡んで、けれど同じタイミングで視線を逸らした。
こんな…
こんな指先一つ触れたぐらいで、キマヅイの―――イヤだよ。
瑠華の指に手を絡めて、そのまま強引にかき抱いて、何もかも忘れるようなキスの雨を降らして―――
俺は自分の手のひらを見つめた。
指先がそこだけ熱をもったように熱い。
君に触れることが
こんなにも痛いこと―――初めて知った。