Fahrenheit -華氏- Ⅲ
『好き』が溢れる。
『愛してる』を伝えそうになる。
指先一つで……その気持ちが伝わればいいと思う一方……一方的に俺がフって傷つけた俺のこと、瑠華はきっとすぐに受け入れてくれない。
そう思うと、悲しくて涙が出そうになる。
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定時の6時を迎えようとしていたときだった。この日に限って瑠華はまだ仕事を続けていきそうな雰囲気で、電話やPCでひたすらやり取りをしていた。
最近俺と二人っきりになることを避けていたようだが、この日ばかりは仕事が立て込んでいると見える。
そんな中、早く帰るのは心苦しいが、瑞野さんと約束をしてしまった以上…そして彼女を待たせてるのも悪い気がして
「柏木さん、ごめん。今日ちょっと早めに上がってもいい?」
顔の前で拝む仕草をすると
「はい。私は気にしませんのでどうぞ」と瑠華は淡々と言いPCのキーボードを叩く。
『気にしない』と言われてちょっとばかりチクリと胸が痛む。
本当に『気にしてない』んだろう。
気にされたい、けれど瑞野さんと食事を行くことを知られたくない。
俺の心は複雑だった。
急ぎ足でApostrophe(アポストロフィ)に向かうと、道路に面した窓際の席、瑞野さんは一人紅茶を飲みながらガラス越しにぼんやりと道路を見ていた。
俺は軽く手を振ると、瑞野さんが慌てて頭を下げ、席を立ち上がった。
何だかこのやり取り、恋人同士みたいだ。
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――
「急にごめんね」
歩きながら俺は謝った。
「いえ、あたしは予定もなかったので、ところでお店は…」
「ああ、急なことだから桐島に押さえてもらった“ほしの屋”だけどいい?」
と一応意見を聞くと
「あ、はい。でも“ほしの屋”て直営店ですよね」
流石、記憶力がいいな。
「行ったことある?」と聞くと、瑞野さんは顏を横に振った。
「桐島が新作作ったらしいから、そのモニターも兼ねてって言われてサ」
嘘だけど…
「桐島主査が?そんなこともされるんですね」
瑞野さんは俺の嘘を全く疑った様子もなく、ちょっとほっ。