Fahrenheit -華氏- Ⅲ
運ばれてきたピーチフィズは透き通るような淡いピンク色をしていた。ふわふわの瑞野さんのイメージぴったりだ。
瑞野さんはそれに口を付けながら目だけを上げて
「どうして柏木補佐と別れちゃったんですか」
と、この前の質問を繰り返した。それは透き通るような淡いピンク色とは程遠い内容の質問だった。
底の知れない暗い……そして濁っている。
ビールを飲んでいた俺は吹き出しそうになって慌てて口を押さえ何とか留めるものも、気道の変な所に詰まっちまったんだろうな、激しく咳き込んだ。
ど直球だな。
「すみません、突然」
「いや…てかそもそも何で俺と柏木さんが付き合ってると思ったの」
言い逃れはできないし、するつもりもない。きっと二村から情報が行ってる筈だし、変に惚けるのも無駄だ。
「それは何となく……前から気付いてました。でも部長、こないだ彼女と別れたばかりだって―――」
ああ、そっか。俺が言ったんだ。でも瑠華と付き合ってた、とは言ってない。
「瑞野さんは何で俺が柏木さんと付き合ってること、気付いてたの?」との問いかけに
「それは―――……」瑞野さんは口ごもった。
何だ―――……?二村から聞いてない―――?
「それはあたしが……」と瑞野さんは俯き、その際さらりと耳の横から髪が流れ落ちた。白い耳が露わになったが、その耳が赤くなっている。
「えっと……その…」瑞野さんは歯切れ悪く言い、ピーチフィズの入ったグラスをきゅっと握って顔を上げると、それをほぼ一気飲みと言う形で呑みこんだ。
「ちょ、ちょっと、そんな飲み方すると酔うよ」俺の方が慌てた。
「お、お代わりします!部長は?部長も空ですよね」と早口に言って俺のジョッキを目配せ。
まぁ確かに俺のペースはいつもこんなもんだから特別早いってワケじゃないが。
でも俺は瑞野さんが心配だ。
俺は再びベルスターを押した。