Fahrenheit -華氏- Ⅲ

「はい」


現れたのは桐島で、俺に向いた目が「今度は何?」と語っていたが、それを返す間も無く瑞野さんが


「あ、同じものを。部長は?どうされますか?」と聞いていて、


何にしよう…そう言えばこの店でキープした焼酎“閻魔”があったな…


いや、あの焼酎は“神流グループ㈱外資物流情報部”て書いてあるから、今瑞野さんと飲むわけにはいかない。


あれは―――そうだな……全ての問題が解決できたら、瑠華と佐々木と―――




三人で飲みにこよう。


その時は三人でくだらない話で大いに盛り上がり、笑い合って―――




俺は目の前でその光景を想像した。


想像しただけで微笑みが浮かんでくる。


夢―――みたいだ。


結局「芋のロック」と頼んでいた。


そしてまた桐島にひそっ。


「瑞野さんペースが早いから薄めに作ってやってくれ」


「了解」


桐島が立ち去って行ってから、微妙な沈黙が生まれた。


またも『あたしが―――…』の続きを聞きそびれちまった。


が、聞いたが最後、な気がして俺はそのことを自分から言い出せない。


何か…何か他の話題……俺はドリンクが運ばれるまで頭の中で考えを巡らせた。


が、何も出てこねー!


どうした啓人!女だったら百戦錬磨!な前の俺だったら相手が沈黙しようが、話し掛けてこようが華麗に空気を読んでいたじゃないか!


ドリンクが運び込まれて、見るからにキマヅイ雰囲気を察知したのだろう桐島が


「フードメニューは?何か追加しなくていい?」と助け船。


桐島!サンキュっ!


「このお店のオススメはね」と瑞野さんに語りかけていて、その間俺は必死に考えたが、ダメだ!どう切り返していいのか分かんねぇ!


シロアリ緑川とはまた別の人種に突如でくわして、それに対応するのは難しい。

< 227 / 608 >

この作品をシェア

pagetop