Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「はい」
現れたのは桐島で、俺に向いた目が「今度は何?」と語っていたが、それを返す間も無く瑞野さんが
「あ、同じものを。部長は?どうされますか?」と聞いていて、
何にしよう…そう言えばこの店でキープした焼酎“閻魔”があったな…
いや、あの焼酎は“神流グループ㈱外資物流情報部”て書いてあるから、今瑞野さんと飲むわけにはいかない。
あれは―――そうだな……全ての問題が解決できたら、瑠華と佐々木と―――
三人で飲みにこよう。
その時は三人でくだらない話で大いに盛り上がり、笑い合って―――
俺は目の前でその光景を想像した。
想像しただけで微笑みが浮かんでくる。
夢―――みたいだ。
結局「芋のロック」と頼んでいた。
そしてまた桐島にひそっ。
「瑞野さんペースが早いから薄めに作ってやってくれ」
「了解」
桐島が立ち去って行ってから、微妙な沈黙が生まれた。
またも『あたしが―――…』の続きを聞きそびれちまった。
が、聞いたが最後、な気がして俺はそのことを自分から言い出せない。
何か…何か他の話題……俺はドリンクが運ばれるまで頭の中で考えを巡らせた。
が、何も出てこねー!
どうした啓人!女だったら百戦錬磨!な前の俺だったら相手が沈黙しようが、話し掛けてこようが華麗に空気を読んでいたじゃないか!
ドリンクが運び込まれて、見るからにキマヅイ雰囲気を察知したのだろう桐島が
「フードメニューは?何か追加しなくていい?」と助け船。
桐島!サンキュっ!
「このお店のオススメはね」と瑞野さんに語りかけていて、その間俺は必死に考えたが、ダメだ!どう切り返していいのか分かんねぇ!
シロアリ緑川とはまた別の人種に突如でくわして、それに対応するのは難しい。