Fahrenheit -華氏- Ⅲ


シフォン素材のボウタイニットの襟もとに、あのリングが掛かっていない。


ニットの中に隠してあるのかと思ったが、チェーンも見えない。


今朝は―――どうだったかな…


観察する余裕もなかった。今朝していて、夜外してきた?


あまりにも不躾な視線で見ていたからか、


「あの……」と瑞野さんがほんの少し顔を赤くして、


「あたしの顔に何かついてますか?」と顎を引く。


「あ、ううん!可愛い服だねって」俺はとってつけたような言い訳。


「あ、ありがとうございます……あの、あたしお手洗いへ……」


瑞野さんが立ち上がった。


俺の横を通り抜けようとしたけれど、その足取りは酷くおぼつかない。


顔が赤いのは感情からだけではなく、リアルに酔っぱらっていたのだろう。


若干ふらつきながら、危なっかしくて、俺も立ち上がった。


「大丈夫?」思わず瑞野さんの肩に手をやろうとすると、瑞野さんが俺の足を踏み、かくりと曲がった。


「キャッ!」
「あぶっなっ…!」


思わず瑞野さんを抱き寄せて、自分の胸へ彼女の頭を掻き抱く。


とりあえず……どこも打ってないようだ……


「良かったね、どこも打ってないみたいだ」


「……す、すみませ」


瑞野さんはさらに顔を真っ赤にさせ…


「ホントに無事で良かっ…」


って、ちっがーーーーう!!


これはマズイ、非常にマズイ!


俺は殆ど衝動的にベルスターを連打していた。



桐島~~~!Help me~っ!!!


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