Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしの言葉におじさまはちょっと目を開き
「啓―――…?」と口の中で復唱しながらも、すぐにやんわりと微笑みを浮かべ
「やっぱりそうだったかぁ」と口髭をなぞった。
「いやね、正直半信半疑と言ったところかな?君と啓人が恋仲にあるってこと」
“恋仲”―――
随分古い物言いだ。
それにくすっと笑ってしまった。
こほん
おじさまは咳払いをして
「今風で言うと『付き合う』て言うのかな?」
おじさまは焼酎が入っているであろうロックグラスに口を付けながら
「でも最初はセックスフレンドでした」
とあっさりと白状すると、おじさまは吹き出しそうになり
げほっごほっ!
激しくむせた。
「大丈夫ですか」すかさずおじさまの背中に手をやり撫でさすると
「いや、大丈夫。君がぶっとんだことを言うから」
「本当のことですよ?」あたしは微笑んだ。
おじさまはがくりと肩を落とし、
「啓人……そこまで見境なかったか」と額を覆いさめざめ。「アイツには散々クギを差したつもりだったが…」
「いえ、彼の為に言いますが、その関係を望んだのは最初は私です。
もう恋とか愛とかうんざりだったので」
感情の無い目で淡々と言うと、おじさまはちょっと微苦笑をしたのち
「君が色々苦労してきたこと、全部そーさんから聞いてるよ」おじさまは眉を寄せて微苦笑を浮かべ「まぁ一杯やらないかい?」とロックグラスを一つ勧めてきた。
「焼酎は勿論だが、ウィスキー、ブランデーもあるよ」
「ではブランデーを」
あたしは勧められるがまま、リビングのソファに腰を下ろした。
ここからだとダイニングが見渡せる。ダイニングテーブルに乗ったあのワイングラスの口紅の女性は―――
一体、誰なのだろう。