Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「ところでおじさま、11日の会食の件はご存じですか」


あたしは直球に聞いた。


性格上、回りくどいのはお互い好まない。


おじさまは少し考えるように顎に手を置き首を捻った。


「11日?確か金曜日だったな。その日私は金沢支店に出張の筈だったが。あちらの業績が少し不振でね。綾子くんも同席する筈だが」


「その日、おじさまを除く恐らく役員の大半が銀座の料亭で会食をなさるのをご存じですか」


あたしの質問におじさまは目をまばたいた。


実際にあたしはどの役員がどれだけ集まるのか分からない。


葵さん情報だと、結構な人数になるようだ。


「私の耳には入っていないな。綾子くんがスケジュール管理をしているが、彼女の見落としとは考えられない」


「ええ、綾子さんも知らない―――秘密の会議です」


おじさまは焼酎グラスを片手に窓際でうろうろと歩きまわっている。


「分からないな。君は何故、どこでその情報を得たのか」




「出どころは言えません。けれど


二村さんが絡んでいることは確かです」




「二村―――……?」


おじさまは目をまばたいた。


「ご存じない?」とあたしが聞くと


「ああ、聞いたことがあるような無いような」


「恐らく緑川副社長が贔屓にしている社員です。副社長が二村さんを利用しているのか、二村さんが副社長の懐に入り込んだのか―――どちらか分かりませんが、





二村という男、相当曲者(くせもの)ですよ」




ソファに座ったままブランデーグラスを傾け、あたしは脚を組み替えた。


そのままの姿勢でおじさまを射るように見据える。


「あくまで私の想像ですが、二村は娘の葉月さんを利用して緑川副社長をそそのかし、その上で派閥の交替を水面下で狙ってるかと―――」


あたしの言葉におじさまはしばらく沈黙した。けれど足取りを止めることはなかった。


けれど、ふとその足を止めるとあたしと同じだけの鋭い視線で


「君の想像話は分かった。けれどその根拠は?


我がグループの大半が神流の血筋で固められている。そうそう派閥がひっくり返るとは思わないが」


と聞いてきた。


当然の答えだ。


そう返ってくることも想定内。


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