Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「証拠はありません。しかし根拠はあります」
間を開けずにキッパリ言うと
「ほぉ?」とおじさまは興味深い何かを見るような目つきで問うてきた。
「二村と言う男は―――緑川副社長のお嬢さん、葉月さんを利用して彼女に近づき関係を持ったうえ、あなたの秘書の瑞野さんとも関係しています」
あたしの言葉におじさまは虚をつかれたように目を丸めた。
「それが……?ただの三角関係では…」
あたしは両指で三角の形を作った。
「二村は神流派の女性、瑞野さんと緑川派の女性、葉月さんと関係を持つことで、神流派の情報を盗み出し、緑川派に情報を売っています」
おじさまは三角に作ったあたしの手をひたすら凝視している。
「以前、緑川副社長のお嬢さんから直接聞きました。二村は自分と付き合っているのに、瑞野さんとも関係がある、と」
おじさまは額に手を置いた。
「まぁ…うちの愚息のこともあるから他人事ではない気がするが」
「失礼ながら申し上げます。
あなたのご子息は、少なくとも会社の女性を利用して出世をしようと望んでいません。
彼は、彼なりに必死に努力を積み重ね―――自力でその道を歩むことを望んでいます」
あたしの言葉が効いたのだろうか。おじさまは額から手を退けあたしの方をまっすぐに見つめてきた。
「これは私たちが関係を持つ前から、彼の仕事に対する姿勢をすぐ隣で見てきた私の意見です」
あたしは、はっきりと言い切った。