Fahrenheit -華氏- Ⅲ
言い切った後、言い知れぬ爽快感を感じた。
おじさまはいつだって啓に厳しかった。それは次期社長と見込んで、厳しく指導しているつもりだったのであろう。
そんな彼……啓が、何も知らない社員たちから影で「ジュニアだから」と蔑まれていたこと、おじさま…いいえ、会長。あなたは知らないでしょう。
あたしとて、そんなおじさまを軽蔑しているわけではない。
ただ、少しで良いから啓の良い所を知ってほしかった。
あたしだけは知っている、彼が人一倍努力家だと言うことを。
「なるほど、君は―――
本当に啓人のことを愛してくれてるんだね」
おじさまは険しかった瞳をふと揺るがせて口元に淡い笑みを浮かべた。
あたしは大きく頷き、それを機に
「それから―――」
バッグから一枚のクリアファイルを取り出した。
「証拠と言えるかどうか分かりませんが、これは私が提出して啓の目を通って、会長室にあげた稟議書です」
あたしがそれを差し出すと、ファイルから一枚の紙を取り出したおじさまは
「桂林のリゾート開発、オークション?見た覚えはないが…」と眉間に皺を寄せる。
「当然です、だってそれは
二村が瑞野さんに盗ませ―――さらに、その稟議書が“偽物”であることを突き止め
啓を脅しているからです」
あたしの説明におじさまは目をまばたき、焼酎のグラスをテーブルに置くと、あたしの隣に腰掛けた。
「待ってくれ、話が良く見えない。この稟議書は君が作成したものだろう?なのに何故敢えて“嘘”を?それこそ私を裏切る行為じゃないか」
「失礼」あたしはその稟議書を彼の手から奪い返し
「説明不足でしたね。補足をさせていただきますと、厳密に言うとそのオークション自体は“ホンモノ”です。それを知るのは作成した私だけ」
「では何故、二村とか言う…若造が“嘘”だと?」
「罠をしかけたのです。攻撃先を私に向けるため」
「君に?何故?」