Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「ようやくお気付きですか?」
あたしはおじさまの焼酎グラスに氷を入れ、焼酎をつぎ足し、マドラーでかき混ぜ、それを差し出した。
「なるほど、それが表になったとき、稟議書を作成した君も、それを一旦承諾した啓人も、そして最終的に決裁を下した私も
責任問題が問われる」
「そう言うことです。恐らく11日の金曜日に役員たちが集まるのは緑川派が神流派に取りこもうとしているからか、と。それはあくまで布石でしかありません。
いかに人を集めるかが重要になってくると思うのです。
稟議書の決裁は最終手段。二村は来たる3月25日の株主総会でこの書類を突きつけるつもりです。
問題は二村がどうやってこの書類に決裁をさせるのか、まだ私には図りかねているのですが」
あたしはにっこり微笑み、グラスを傾けると今度はおじさまがあたしのグラスにブランデーを注ぎ入れてくれた。
「二村と言う若造は―――そこを狙ってきたと言うわけか。
そして緑川の娘との仲を緑川に認めてもらえれば―――いや、私たちを失墜させる条件に娘を差し出すかどうか決める、かもしれないな」
「ええ、でも忘れないでください」
あたしは稟議書をつまんでおじさまの前でひらひらさせた。
「これは間違いなく“ホンモノ”です。
裏オークションなんて存在しない。
幸いに、あなたのサインはまだです。決裁が降りていない今、彼らにとってこの問題は宙ぶらりん」
「ではどうすれば」とおじさまが意見を窺ってきて
「彼らの望みをかなえてさしあげましょう」
あたしはにっこり微笑んだ。