Fahrenheit -華氏- Ⅲ
落ち着け啓人、落ち着け…と必死で胸を宥めるも
落ち着けな~~~い!!
一刻でも早くこの密室の二人っきり(厳密に言うと運転手も合わせて三人だが)から抜け出したい。
「急いでください!」俺が運転手を急かすと、それから5分程で目的地に到着した。
綾子からのメールで『コーポ桜木』と名は付いていたからてっきりアパートか何かを想像してたものの―――
「団地?」と思う程、灰色の建物が密集していてその建物に1棟~6棟と番号が振られている。
再度綾子からのメールを確認すると4棟の202号室となっていた。
「瑞野さん、ほらっ、着いたよ」と今度こそはっきりと揺さぶると瑞野さんは一瞬だけ目を開けたものの、またもゆっくりと瞳を閉じる。
「あの……ここでいいんですか?」と運転手に急かされ
「合ってます、これお金」とメーター料金をカードで払い
瑞野さんを片手で抱きかかえるようにして、片方の手で俺と瑞野さんのバッグを持ち、タクシーから出るとせっかちなタクシーはすぐに走り去っていった。
「瑞野さん、ここで合ってる?」一応確認の意味で瑞野さんに聞くと、俺の腕の中
「……はい…でも…部長が何で…」とうつろな返事がきた。
「酔ってるんだよ、ほら。もう少しだから」と俺は瑞野さんの肩を抱きかかえ何とか歩かせるが、その足取りはひどく危うい。
これじゃ前に進むにも進めない。
結局俺は、鞄を腕に通し、両腕で瑞野さんを所謂お姫様だっこで抱える形に。
瑠華と似たような背格好だけど、やっぱり瑠華とは違う。瑠華を抱きかかえることに慣れていた俺は、決して重いと言う分けではないが瑞野さんを抱きかかえるのに結構苦労した。
あらぬ所を触ってしまって「セクハラっ!」と後で訴えられたらかなわんしな。
202号室と書かれたそっけない鉄の扉の前で「瑞野さん、着いたよ」俺は一旦床に瑞野さんをそっと下ろした。
「鍵は?ある?」と聞くと
「鍵……鍵は…バッグの中…」と言われて、それでも探す手は酷く危うい。
「ちょっといい?」と一応断りを入れ(だって女性のバッグに無断に手を入れちゃいかんだろ)鍵の類を探そうとしたところで、化粧ポーチか何かに手がぶつかったのかバッグの中からそれらと一緒に、小さな金属がコロコロと転がり落ちてきた。
一瞬、家の鍵かと思って期待したが
俺はまたも目を開いた。
乏しい外套の中、きらきら輝くピンクゴールドのチェーンに繋がった
リング―――