Fahrenheit -華氏- Ⅲ



「これ―――」


俺はそのチェーンに繋がったリングを拾い上げ、まじまじと見た。


それは二村の首に掛かっていたリングとやはり同じデザインのものだった。


それをまじまじと見つめていると


キィ


小さな金属音が擦れる音が聞こえて、40代後半ぐらいと思われる女がおずおずと顔を出した。歳こそいっているし化粧っけがないから、素朴な感じに見えるが結構な美人だった。


そして瑞野さんに似ている。


「みゆき?帰ってきたの?」


その女とまともに目が合って


「みゆき!?」女の人は瑞野さんに駆け寄った。


「おか……さ…?」瑞野さんはうつろな目で(たぶん瑞野さんのお母さんだろうな)女性を見た。


てか瑞野さんの名前『みゆき』て言うんだ、初めて知ったぜ。


「あの……」とお母さんは思いっきり不審そうに俺を見る。


考えたら俺、思いっきり不審者だよな。酔いつぶれている瑞野さんの足元で瑞野さんのバッグをまさぐっている……単なる変態扱いならまだしも、強盗や強姦魔に見られたらっ…!


俺は慌てて瑞野さんのバッグを拾い上げ、スーツの内ポケットに手を入れながら名刺を取り出した。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私は瑞野さんと同じ会社の者でして」


お母さんは名刺を受け取り


「神流グループ㈱外資物流事業本部、部長―――


神流 啓人―――さん」


と名前を復唱して目をまばたく。


「すみません!私の不徳の至すところ、大切なお嬢さんをこのように酔っぱらわせてしまい」


とりあえず、と言った感じで俺は謝った。


後で訴えられたらどーしよー!と心の中はさっきと同じ滝汗。


「い、いえ!こちらこそみゆきが御厄介に」とお母さんは瑞野さんを抱き起こしながらぺこぺこ。


「すみません、もっと早く止めるべきだったのですが」と俺は本気で謝った。


「いえ…こちらこそ。先ほどお店の方から電話が掛かってきました。みゆきが酔っているようで、上司の方とこっちに向かっている、と確か……キリヤマさん…キリノ…?」


桐島か。


助かったぜ桐島!


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