Fahrenheit -華氏- Ⅲ

警官たちは(いかにもと言った)高級車(クラウン)から、しかもお抱えの運転手が扉を開けて出てきた神来社支社長を見て少しだけ顔を見合わせていた。


「失礼、彼は私の会社の会長のご子息でして」


神来社支社長は姿勢がよくスタイルもいい。髪の色が黒と白の配合が絶妙なロマンスグレーで着ているものも仕立ての良い高級スーツ。喋り方もハキハキしているがどこか紳士で、嫌味を感じない。


前に一度だけ見た。あれは―――確か瑞野さんが神来社支社長と仲良さげにしていた所、俺が割って入ったんだっけ…


瑞野さんが、紳士の皮を被ったワルい男に連れ去らわれるっ、セクハラされてるって、早とちりしちまって…


嗚呼…考えるだけでも恥ずかしい。
(※FahrenheitⅡ参照)


しかも残念ながら、この男は緑川派だ。


しかし、神来社支社長は警官たちにどう説明したのか、或は支社長がいかにも、と言ったエリートに見えたからか、警察官たちは頭を下げ立ち去って行った。


「東京へお戻りに?私も明日東京本社に呼ばれているので、今日から入る予定でしたのでちょうど良かった。乗っていかれませんか」


と車の方を促され、俺は目をまばたいた。


しかし、携帯の地図はあてになんねぇし、タクシー1台通ってないこの状況の中、選択肢は限られている。


緑川派だとは思いつつも、俺はそのありがたい提案に乗ることにした。


高級クラスのクラウンのシートは革張りで、シートすら高級感がある。それはさっき瑞野さんと乗ったタクシーとは雲泥の差だった。


「ところで、何故あの場所に?」と当然の質問をされ


「瑞野さ…って覚えてますか?恐らく港支社でも秘書だった瑞野さん。彼女とちょっと飲んでて…」と言いかけて


「あ!いえっ!その…プライベート的なものではなく、ちょっとした仕事上の相談をされまして」


取っ手付けたように言い訳。その言い訳を信じたのか、或は軽く流されたのか


神来社支社長は明るく「はは」と笑い、「気にしませんよ」と一言。


「瑞野さん……覚えてますか?」俺はもう一度質問をした。


「ええ、覚えていますよ。彼女は優秀だった」


「なのに何故異動を?」


「さぁ私には分からない」と神来社支社長は軽く肩を竦めた。


うちの辞令や異動は会社の取り決め(その部署に適切か不適切か審査をする)こともあるが、本人や他人が自薦他薦することもできる。(前に村木が瑠華を引き抜こうとしたことがいい例だ)


「つまりあなたの意思で異動にしたわけではない、と」探りを入れるつもりで目を上げると


「有能な秘書を自ら手放したくはない。けれど会長の元で修行をしたいと言う意欲は感じ取れた。直接聞いたわけではないがね。だから本人が志願したのでは?」


なるほど…


「じゃぁほぼ一緒に移動になった二村のことは?ご存じですか」と神来社支店長に聞くと


「二村?」と支店長は目をまばたいた。


この様子からすると



知らない―――……?



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