Fahrenheit -華氏- Ⅲ


―――――

――


「本当にここで良いのですか?」


東京駅を目の前にして神来社支社長が俺に聞いてきた。


「ここで大丈夫です。本当にお世話になりました。助かりました」


運転手が扉を開けてくれ、俺は車から出ながら車内を覗き込んだ。


「いやいや、どうせ行く方向が一緒だったわけだったから、


あ、そうそう。あと瑞野さんにも伝えてくれないですか。




疲れたら―――いつでも戻ってきなさい。


君の席はいつも空けておいてあるから、と」


いつでも―――…?


「と言うぐらい彼女の不在は私にとって痛手でね、とりあえず第二秘書はいるが手際が悪い男で…」と神来社支社長は苦笑い。


「悪い子ではないんだが、手際が…」


「異動させた方がいいんじゃないですか」俺が苦笑を浮かべると


「そう簡単に切り捨てられるものじゃないよ」と神来社支社長も苦笑い。




「何でも伸びしろと言うものがあるんだよ。私はギャンブラーでね、


その伸びしろと言うのに賭けている。



だからあなたの提案にも―――賭けてみる」




神来社支社は爽やかに笑った。


「“色々うまくいったら”それなりの席を用意してもらうように親父に口添えしますよ。


アイラちゃんの自慢の“じいじ”で居られるようなポストに」


「期待しているよ」


神来社支社の言葉を最後に扉は静かに閉められた。


俺の方も大きな賭けだ―――


神来社支社長が裏切る可能性だってある。


けれど、賭けられるものに、と言うか本能に―――賭ける。


この男は使える、と。



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