Fahrenheit -華氏- Ⅲ
20XX年11月10日
例の会食は明日だ。
だが、こうなりゃじたばたしても仕方ない。
俺がやれることは―――
佐々木が出勤してすぐに
「佐々木、悪いが今日東京ばな奈買ってきてくれないか。ピンクのリボンがついたやつ」
俺の指示に佐々木は目をぱちぱち。
「え?東京ばな奈?何故?」
瑠華も同じ反応を見せて顔を上げるとこちらを見てきた。
「ビジネスで使う」俺は多くを説明せず、5,000円札を佐々木に手渡し、「これで買えるだけ買ってこい、あ。ピンクのリボンだからな」と念押しすると
「あ、はい」と佐々木は慌てて周り右。
「どんなビジネスなんですか」
書類をトントンと束ねながら瑠華が訝し気にこちらを見てくる。
最近、あまり瑠華から話しかけることはなかったが、俺の奇行が気になったのだろう。
「さっきも言ったけどビジネスで」とそっけなく答えると、瑠華もそれ以上は突っ込まなかった。
ごめん瑠華。今は多くを説明してられないんだ。
何より、君を巻き込みたくない―――
とは言っても半分巻きこんでいるようなものだが。瑠華も11日の会食の件を知っていたし。
問題は、誰から聞いたか―――だが。気になると言っちゃ気になるが、今は目先の問題を片付けなければ。
佐々木は午前中いっぱい帰って来なかった。
俺自身もネットで調べて見たが、ピンクのリボンのパッケージの東京ばな奈は限定品で、しかも売られてるいる場所が限定されているらしい。
佐々木は今頃きっとあちこちの店舗を駆けずり回っているのだろう。
その間、俺はトイレに立ったり、喫煙ルームで一服したり、をしたが、その度に男女問わず俺に視線が突き刺さった。俺を見るとさっと顔を背け、やがてひそひそと噂話。
何だろう……また寝ぐせが酷いとか??いやいや、今朝シャワーしてきたし…とか思ったが、明日の会食のことでいっぱいいいっぱいだった俺はそれ程気にして居られず。
佐々木が昼休憩間際に東京ばな奈の紙袋、四袋を抱えて戻ってきたと思いきや
ドサッ!
東京ばな奈の入った紙袋をデスクに置くなり、
「部長っ!ちょっと!!」
と俺の腕を取って強引に立たせる。
「何だよ、足りなかったら追加料金を…」と財布を取り出そうとすると
「お釣りです!」と佐々木は百円玉を数枚デスクに叩き付け、いつにもなく妙な気迫を湛えて、俺を廊下までぐいぐいと引っ張っていった。途中、ちらちらと瑠華の方を気にしながら。
見られてるとまるで気付いていないのか瑠華は淡々と業務に当たっている。