Fahrenheit -華氏- Ⅲ


――――

――


どれぐらい経ったであろう。


うつろな視界で


「じゃぁ本郷さん、悪いけど柏木さんの傍についててくれる?総務部長には俺から説明しておくから」


啓はマナミさんを―――…いいえ、本郷さんを結局のところ連れ戻したようだ。


「…はい、でもあたしで大丈夫ですか…?」


「女性同士の方がいいと思うから、ごめんついててあげて?」


「はい……あの柏木補佐、どこか悪いのですか…?」本郷さん…マナミさん?が心配そうに啓に聞いていて


「……うん、まぁ…」と啓は曖昧に頷く。


「でも大丈夫だよ、すぐに良くなるから」



良くなるよ―――



啓の言葉を聞いた気がする。そしてあの温かいぬくもりと、大好きな香りがあたしを包む。



啓―――……


行かないで…





行かないで―――




どれぐらいそうしていたのだろう。


薬の効果か、それとも疲労からか、あたしは眠っていたようだった。


うっすらと目を開けると、マナミさん…いいえ本郷さん?が酷く心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「柏木補佐……あの…大丈夫ですか?」と聞かれ、あたしは小さくこくりと頷いた。


ゆっくりと起き上がろうとすると、本郷さんが支えてくれた。


「無理しないでください…」


「ええ、ありがとうございます…」


「あの…これ」と言ってあたしのバッグをおずおずと手渡しくる。


「…お気遣いありがとうございます。でも…戻ります」


バッグを受け取りながら言うと


「無理はなさらないでください。あの……聞いて良いのかどうか…心臓に病気が…?」と本郷さんは酷く心配そうに聞いてきて、あたしは目をぱちぱち。


まぁ、あながち外れていないけれど。


「そんな所です。すみませんご迷惑をお掛けして」と小さく謝ると


「いえ!迷惑だなんて」と本郷さんは慌てて手を振る。


「私は大丈夫です。戻ります。マナミさ……本郷さんも戻ってください。総務部には私からもきっちり謝罪を」


「いえ、大した仕事もしていないので」と本郷さんは苦笑い。


きちんと起き上がると、ソファの上に啓の上着がファサっと落ちた。




啓―――……


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