Fahrenheit -華氏- Ⅲ

あたしは啓のスーツの上着とバッグを持ち、応接室の前でマナミさんにきっちり頭を下げ


「あたしは一服していきますので」と言うと


「本当に大丈夫ですか?」とマナミさんは言いたげだったけれど、結局の所戻っていった。


あたしは言葉通り、タバコを一本吸って缶コーヒーでも飲めば完全に落ち着く…と思って喫煙ルームに向かった。


しかし


そこにはすでに先客が居て




二村さん―――




あたしは目を開いた。


二村さんは最初あたしの登場に気付かずぼんやりと宙を眺めながらタバコをくゆらせていた。


パタン!


やや大きめな音を立てて喫煙ルームに入り扉を閉めると、そこでようやく二村さんはこちらを振り向いた。


「あれ?柏木さん♪」といつもの調子で人懐っこく話しかけられ





「Are you happy now?(これで満足ですか?)」




あたしは二村さんを睨みながら低く言った。


「え?」二村さんは英語の意味を理解できなかったようで


「I'm asking you, are you satisfied? Thanks to you, I'm at your mercy!(満足かって聞いてるのよ!おかげで私はあなたの思う壺!)」あたしは怒鳴り声をあげた。


二村さんは吸いかけのタバコを灰皿に押し付け


「何か怒ってるみたいだけど、俺、何かした?」とにやにや。


「You must have a lot of knowing, right?(心当たりは山ほどあるでしょうに)」吐き捨てるように言い




「Such a jerk!(このクソ野郎)」




と低く唸ると


バンっ!


二村さんがあたしの背後のガラス戸に手をついた。


「何言ってンのか分かんねーよ」


そう低く言った二村さんの声は温度が無くいつものような人懐っこい子犬のような愛苦しさは微塵もなかった。下品な笑顔さえ浮かべている。


「とうとう本性を現しみたいですね」


あたしは二村さんの威嚇にも怯むことなく彼の腕の中、彼を睨み上げると


「こっわー、何睨んでンの?俺、何かした?」とニヤニヤ笑う。


「私はあなたのような男に潰されたりしない」睨み上げたまま言うと


「潰すとか物騒だな~、何?俺、ワルモノ?俺が柏木さんに何かした?」と聞いてくる。


何か―――……


色々あり過ぎて罪状がいくらあっても足りないぐらいだ。


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