Fahrenheit -華氏- Ⅲ
どれぐらいそうやって睨みあって…いや、睨んでいるのは一方的にあたしの方で、二村さんは怯んだ様子はない。
そうこうしているうちに喫煙ルームにタバコを吸いにきた男性社員が中に入ってこようとした。
彼はあたしたちの様子を見て少しぎょっとしたように一歩後退した。
二村さんはパっとあたしから離れ、
「単なるお遊びですよ~」とへらへら。
あたしは二村さんを睨みながが
「Remember, I'll peel the ghost!
(覚えておきなさい、必ずあんたの化けの皮を剥いでやるから)」
と後ろ歩きで二村さんを指さし。
「失礼」
男性社員の横を素通りして、
「え!何?何て言ったの!?てか喧嘩?」
「喧嘩なんてしないですよ~柏木さん仕事がうまくいってないみたいでカリカリしてるみたい」と二村さんの明るい声を聞きながら
「Such a jerk!(クソ野郎)」
あたしは再び呟いて、自部署に戻った。
ブースに顔を出すと
「あれ!?柏木さん!大丈夫なんですか!」と佐々木さんが席をがたつかせて立ち上がる。
啓も驚いたように目を開いている。
「ええ、大丈夫です。少し休んだら楽になりました」
「無理しなくていいよ」と今度ばかりは啓が眉を寄せて気遣ってくれる。
「いえ、無理はしません」
あたしはスクリーンセイバーになっている画面からPWを打ちこみ、画面を切り替えた。
さっき席を立ったときの画面に戻り、何事も無かったかのようにキーボードに指を走らせる。
その様子をハラハラと啓と佐々木さんが見守っている―――と言うのが分かったけれど、気付かないふり。
あたしの怒りは―――仕事で発散するしかないのだ。