Fahrenheit -華氏- Ⅲ
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午後8時ジャスト
俺は銀座にある一軒の料亭に来ていた。
銀座とは言っても新橋に近い。
テレビドラマに出てくるような広い個室ではないが、そこそこのしつらえ。
テーブルを挟んで座椅子が四個。壁には掛け軸。窓は半分障子、と言ういかにも老舗感がある店。
勿論、俺は知らない店だ。紫利さんが取り計らってくれた。彼女はマダム・バタフライの同伴の時、何度か客と利用したらしい。
部屋のチャージ料が5,000円だろ?それから日本料理のコースで一人20,000×3
合計65,000円
「(出費が)いてぇな」
座椅子の上で胡坐をき、思わず額に手をやっていると、襖がスラリと開いて俺は慌てて居住まいを正した。
「遅くなって申し訳ない」
と顔を出したのは、港支店の支店長
神来社支店長だった。
支店長は昨日と同じようなスーツで、相変わらず品の良い恰好で嫌味じゃない程度にくだけて入ってきた。
「突然のお呼び立て申し訳ございません」まずは謝った。
「いやいや、東京(ここ)に来てもそうそうやることがなくてね、本社の用事も会長に挨拶程度で終わったし、ちょうど良かったんです」と彼はちょっと笑って俺の向かい側に席を下ろした。
早速、と言う具合で俺は、今日佐々木に手に入れてもらった東京ばな奈をずいとテーブルに滑らせた。
流石にドラマでやってる、商品の下には万札の束が…と言うわけにはいかないが。
「これ…」
神来社支店長は目を開く。
「少しばかりですが」俺が言うと神来社支店長は破顔。
「いやぁ、今日一日暇な時間に探し回ったんですが、どこにもなくて」と恥ずかしそうに頭に手をやる。
「孫の喜ぶ顔が早く見たいなぁ」
その顔は本当に孫のことを想っているのだろう、嬉しさと幸せで満ち溢れていた。