Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「まぁ、まず一杯やりましょうか」神来社支社長が切り出し
「そうですね、飲み物どうされます…?」俺がメニュー表を差しだそうとするより早く
「瓶ビール2本、グラスは三つで」と紫利さんが素早く注文。
「かしこまりました」と仲居は引き下がろうとしていたが、神来社支社長が
「メーカーはどこのですか?」と聞いていて
紫利さんはこそっと俺に耳打ち。
「神来社支社長の最初の一杯はサッポロ黒ラベルと決まってるの。その後は日本酒の八海山を燗で」
「すっげぇな!」思わず目をまばたくと
「銀座の女を舐めないでよ。それに、あなたがリサーチ不足なのよ。もっと勉強してきなさい」と説教(?)され、俺は素直に頭を下げたが、
紫利さんを呼んで正解だった!
紫利さんの言った通りサッポロの黒ラベルの瓶ビールが届き、これまたすぐさま
「お酌させてください」と紫利さんが瓶ビールを手に取った。
グラスを傾けながら神来社支社長は気恥ずかしそうに
「いやぁ、こんな美人をほぼ独り占めできるなんて男冥利につきますねぇ。
あ、家内には内緒と言うことで」と唇に指を当て「しー」の仕草で軽くジョークも交える。
「まぁお上手ですこと」と紫利さんがころころと上品に笑う。
ホント……正解だったぜ、その道のプロに頼むってことが。
ビールと共に先付けが運ばれてきた。会席料理と、
そして“取り引き”が始まった。