Fahrenheit -華氏- Ⅲ
でも何故に佐々木?
俺がまっさきに連絡しそうなのは裕二な気がするが。
何せ相当できあがってたわけだから、適当に目についたナンバーに掛けたんだろうな。
「ところで、柏木さん……まだ来ませんね。あと15分で始まりだって言うのに…」
佐々木はどこか不安そうに眉を寄せ、壁掛け時計を気にしている。
確かに。
こんなこと、一度も無かった。
瑠華に限って無断欠勤とかは考えられない。
考えるとすれば一つ―――……
最悪なことが頭に浮かんで
「佐々木、柏木さんに電話しろ」と言うと、名指しされた佐々木は
「僕が、ですか」
俺は無言で頷いた。俺はよっぽど深刻そうな顔をしていたからだろうか、佐々木は慌ててデスクの電話の受話器を手にとった。
一分ぐらい、佐々木は無言だった。
受話器を戻し
「電源が切られてるみたいです」と情けなく眉を寄せる。
「会社用の携帯にも掛けてみろ」と再び言い、言われた通り佐々木は慌てて電話をしたが、またもすぐに受話器を戻し顔をゆっくりと横に振った。
二台とも連絡が取れない―――…
俺は慌てて携帯を取り出した。プライベート用の方は瑠華の部屋の固定電話の番号も入っている。
それでも繋がらず、また瑠華が時刻に出勤してこなかったら、
俺は鞄に入っているキーケースを取り出していた。キーケースには自分の部屋のキーはもちろん、車二台を含め―――瑠華のマンションのキーも入っている。
このキーを使うのは初めてだ。
まさかこんな形で使うとは思わなかった。
最悪な形だ。
真剣に壁掛け時計の秒針が動くのを見つめて……いやいっそ睨んで?いると
始業5分と言うところで
「おはようございます」
瑠華の淡々とした声を聞いて、俺は思わず声のした方を振り向いた。