Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「あ!柏木さん!良かった~」と佐々木はほっと胸を撫で下ろしている。
俺の心臓が一瞬強く波打った。
良かった―――
無事で
瑠華はきれいなピスタチオ色のゆるめのニットと白パンツと言うこざっぱりとした姿で、しかし顔色は悪く、無理やり化粧を施したと言うことが分かる。
一瞬目が合い、俺は慌てて視線を逸らした。
「お…はよ」とぎこちなく一言。慌ててPCに視線を移し、キーケースを引き出しに仕舞い入れた。
ほんの一瞬だったから分からないが、瑠華はいつも通り―――のように見える。
「珍しく遅いな~って思ってて、ちょっと心配になったから電話したんですよ、そしたら繋がらなくて…プライベート用と社内用と」
佐々木が瑠華に説明をしていて、瑠華は慌ててバッグからもう一台の携帯を取り出したようだ。
「すみません、社内用は充電切れでした。プライベート用の方は……
昨日、家で転んだ時に壊してしまって」
転んだ―――…
壊れ――――……た
あれは、偶然にも俺とお揃いの機種だったわけで、しかも日本未発売なもので、しかも限定モデルだから、今はもう入手できない。
ちらりと瑠華の首を見ると、最近ずっと定着していたシルバーのチェーンネックレスではなく、温かみのあるローズゴールドの二連になっているチェーンに深い緑色のペンダントトップがあるロングネックレスが掛かっていた。
瑠華が腰を下ろしたり、佐々木に喋りかけたりする度に揺れるネックレスは―――
もう俺の居場所がないことを物語っていた。
当然だ。
なのに、心が追いつかない。
俯いたままきゅっと首元に拳をやる。
が、慌てて手を離した。
俺のワイシャツの中、瑠華とのペアリングがやけに冷たく感じられる。
「え!転んっ!あ、だから手怪我しちゃったんですか?大丈夫ですか」と、佐々木の声が聞こえて
はっとなった。
怪我―――……!?