Fahrenheit -華氏- Ⅲ
闘い―――か……
中世ヨーロッパでは、女にとって『結婚』は決して『幸せ』なものではなかった。
嫁ぐ先によって彼女たちは死刑宣告をされたも同じ。
男を知らない生娘のまま愛していない男に抱かれ、子を作ることが使命とされる。
特に王族の場合は、その後は後宮の派閥争い、いかに王の寵愛を受けるか、
常に闘いの場にいるのだ。
男は戦争に行き実際に戦場で闘う。
けれど女だって同じ。
ドレスと言う名の甲冑、言葉や仕草、知性と言う武器で戦うのだ。
神流グループもまた同じ。
あたしは―――闘いに負けた―――…?
いいえ、まだ勝負はついていない。
あたしは稟議書を手に取り、それを画面越しに心音に見せた。
「ちょうど良かった、あたしも心音に話があったの。
あたしは腹を括ったわ。
11月18日、そうね約一週間後―――
決行する」
『I see. (ふーむ)例の決裁はどうなったの?承認されなかったらルール違反であんたがPenaltyを受けるわよ』
「それは大丈夫よ」あたしは口の端を曲げてすっすら微笑んだ。
『どんな手を使ったか知らないけれど後から種明かしをしてよね。結果が楽しみだわ♪』
心音はサーベルを床に突き刺し、勝気に微笑んで腕を組む。
「そうよ、だから心音もしっかりお願いね」
『OK!任せておいてっ!でもUSBで必ずウィルスでバリア張っておいてよ?じゃなきゃ意味がないわ』
ウィルスと言うのは、以前心音が手渡してきたUSBのことだ。
「大丈夫よ、決心したもの。今更覆す気はない」
心音の姿が映っている画面を射るようにまっすぐ見つめると
『了解~♪じゃぁ、あたしはあたしの“仕事”をしっかりするわね』
「お願いよ、全てはあなたの手腕に掛かってるの」あたしが真剣に言うと
『任せてよ、そんな小さなことで失敗はしない。ただ…』
心音は言いかけてちょっと眉を顰める。
「ただ?」
『ユージには知られたくはないわ。彼ならあたしの邪魔をしてくる可能性がある』
ユージ…
「麻野さん?」
『ええ、知られたらちょっと難しくなるかも』と珍しく心音が額に手を当て吐息をつき弱気。
なるほど。心音にとって麻野さんはそこまで驚異な存在なのだ。
「じゃぁそれを逆手に取りましょう。使えるものは最大限利用しなきゃ」
あたしは残ったビールを一気に飲み干し、にやりと笑った。