Fahrenheit -華氏- Ⅲ
昔からちょっとカタブツな所があった。
つまらない女だと言うことも分かっていた。
特に最初にNYに渡ったとき、英語すらまともに喋られないあたしにとって、Elementary School(小学校)は日本人学校ではあったけれど、苦痛しかなかった。
環境の変化に耐えられずあたしはいつもすみっこで一人。
日本人学校であったから全く日本語が通じなかったわけではないけれど、当時のクラスに馴染めなかったのは確か。
そこで初めて同じクラスだった心音が声を掛けてくれた。
そこからあたしたちの仲は始まった。
心音のおかげでだいぶ馴染めるようにはなったけれど、それでも元来の性格がそうなのか、見た目的には(?)OKでも話すと思いのほか『つまらない』だったらしく、親しくなれる子は少なかった。
あたしの話に笑って頷いてくれる子は心音以外いなかった。
それでも良かった。
あたしには心音がいるから。
そう言えばマックスからも、結婚後『Don't be boring.(つまらないこと言うなよ)』とよく言われて呆れられてたわね。
啓は―――、紫利さんと一緒であたしの『つまらない』部分もいつも笑ってくれた。ときに驚いてくれた。
あたしはそんな風にころころ表情が変わる啓が好き―――
『瑠華ちゃん―――…?』
紫利さんに聞かれ、窓の外を見ながら電話をしていたあたしが窓ガラスに映っていて
ここではじめて自分が泣いていた、と言うことに気付いた。
ガラスに映るあたしは、やっぱり表情を露わにしていなくて
まばたきをするその一瞬、暗くなった視界に
胸を押さえながら滅茶苦茶に叫んで、床に崩れ落ちる自分の姿が浮かんだ。
けれど、目を開けると実際はそうではなくて―――
あたしは、ただ表情の抜け落ちた人形のような表情の中、不自然に涙だけ浮かべている。
紫利さんは察したのかもしれない。
けれど何も言ってこない。
その空気が今のあたしには心地良い。
変に同情されるのはいや、慰められるのもイヤ。
『明日は、雨が降りそうね』
紫利さんの静かな声を聞き、
ー あなたの涙を雨が流してくれるといいけれど
紫利さんは静かにそう言って、
通話は切れた。
紫利さんが今日電話をくれたのは―――果たして偶然なのだろうか。