Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「な、何で……」と返すのが精一杯。
しかし彼女たちの勢いは止まらない。
「噂になってます!瑞野さんと抱き合ってたとか、キスしてたとか、同棲してるとか!」
同棲…?それは初耳だな、噂に尾ひれ背びれたっぷりだな。
なんて感心してる場合じゃない!
「そ!それは嘘だから!」
俺はちらりと自販機の隅を見た。
瑠華は俺と女性社員の方を見ていなくて、ただただ床の一点をじっと見つめている。
その横顔はただただ―――無表情だった。
瑠華の持ったタバコは三分の一程度に減っていた。
「てか柏木補佐と付き合ってるって噂あったけど、どっちが本当なんですか?」と勢い込まれ
「う、噂…?」と声が裏返ってみっともなく、返すのが精一杯。
そもそもこの手の女は苦手だ。
「でもでも、柏木補佐と瑞野さんてタイプ違い過ぎるじゃん?」と女の子たちは本人を目の前に(まぁ気付いてないからしょうがないけど)勝手に噂話。
「ま~ね~、あたしが男なら瑞野さんに行くかな」
「あたしも~」
「柏木補佐って怖いもんね」
ちょ…ちょっとキミたち……その“本人”がいらっしゃるのですよ。
「あー、ちょっと…」と彼女たちを押しだそうとすると
スっと瑠華が立ち上がった。
殆ど根元まで灰になったタバコをステンレス製の灰皿に捨て
「噂話でしたら本人の居ないところでしてください」
そっけなく言って、何事も無かったかのようにその場を立ち去った。