Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ドクン!
と胸が強く打った。
『瑞野さんと抱き合ってたとか、キスしてたとか、ホテルから出てくる所を見たとか
同棲してるとか!』
『あたしが男なら瑞野さんに行くかな』
『柏木補佐って怖いもんね』
あくまで噂話だ、啓も否定してたし―――
でも、果たしてどこまで嘘なのだろうか―――
急に息苦しくなって心臓の辺りを押さえていると
緑川さんは、はっとなって慌てて口を手で覆った。
「すみませっ!」
「いいえ、気にしていません」
なんて強がっているものの、スカートの上で握った片手の拳にきゅっと力が籠った。
「あたしは、正直、部長には柏木補佐の方がお似合いだと思うんですよ!
だって柏木補佐って飾らないから。何て言うか、そう言う意味で“女”を前面に出してないて言うか」
と緑川さんは慌ててフォロー。
緑川さん…
以前…そうね、最初会ったばかりのころはあたしのこと敵対視してた。
緑川さんも啓のことが好きだったから。
でも―――今は違う。
心臓を押さえたまま、小さく呼吸して
「すみません、タバコを吸っても?」と緑川さんに聞くと、緑川さんは慌ててこくこくと大きく頷く。
タバコを吸って、煙を吐いて―――
その動作だけで、少し楽になれた気がする。